東京高等裁判所 平成2年(行ケ)200号 判決
第一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
第二 そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。
一 成立に争いない甲第二号証(特許出願公告公報)によれば、本件発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が左記のように記載されていることが認められる(別紙図面参照)。
1 技術的課題(目的)
本件発明は、主として収穫した農作物の選別装置に関する(第三欄第二行及び第三行)。
従来のこの種の装置(チエーンバケツト方式、あるいはベルト搬送方式)は、選別後の被選別物を、バケツトあるいはベルトから分類別の容器に投下する構成であるので、被選別物どうしが接触して傷付くことを免れないとの問題点があつた(第三欄第六行ないし第一〇行)。
本件発明の技術的課題(目的)は、被選別物どうしの接触を防止し得るような、農作物の選別装置を創案することである(第三欄第一三行及び第一四行)。
2 構成
本件第二発明は、前記技術的課題(目的)を解決するために、その要旨とする構成を採用したものである(第二欄第七行ないし末行)。
この構成の特徴は、被選別物をパンに収納し、このパンを搬送コンベヤに対してフリーな状態で移送しつつ選別作業を行い、選別後も、被選別物をパンごと箱詰め箇所まで移送する点に存する(第三欄第一五行ないし第一八行)。
別紙図面は、その実施例を示すものであつて、第1図ないし第14図は第一の実施例の説明図、第15図は第二の実施例で使用する記録媒体を有するパンの断面図及び底面図、第16図は第二の実施例の装置の説明図である(第一四欄第三一行ないし第一五欄第二行)。
第一の実施例は、選別物搬送コンベヤ14の搬送途中に構成される各選別部151、152‥‥‥に、それぞれ計測装置16を設け、各計測装置16の計測結果に基づいてそれぞれのパン押出し装置43を作動させる方式である(第一一欄第二五行ないし第三〇行。第1図参照)。
これに対し、第二の実施例は、各選別部151、152‥‥‥への各計測装置16の設置を省略して、選別物搬送コンベヤ14の前段にただ一個の計測装置152を設置し、この計測装置152によつて、通過するすべての被選別物を計測して選別段階を分類し、その分類内容をパンPに記録する。各選別部151、152‥‥‥においては、その記録内容を読み取り、パンPが記録内容と符合する選別部に位置したときにのみ、パン押出し装置43を作動させるものである(第一一欄第三〇行ないし第三八行)。
詳説するならば、パンPは、第15図に示すように、複数個の磁性体あるいは磁性粉等の記録媒体P5を、底面の幅方向に一定ピツチで埋め込んである(第一一欄第四〇行ないし第四三行)。また、各選別部151、152‥‥‥には、第16図に示すように、読取装置151を設ける(第一一欄第四三行ないし第一二欄第三行)。制御装置155は、計測装置152から送出される結果によつて選別段階に分類し、記録装置156を作動させる。つまり、記録装置156は、計測装置152の後段に設けられ、制御装置155の指令に基づき、指令された一つの記録媒体P5を選んで磁化させるのである。なお、空パン返還コンベヤ108の最終部分には、着磁されたパンPの記録内容を消磁する、脱磁機157を設ける(第一二欄第一一行ないし第一九行)。
すなわち、選別物供給コンベヤ12によつて被選別物を投入されたパンPが選別物搬送コンベヤ14へ送られると、計測装置152が計測を行つて、測定信号を制御装置155へ送る。制御装置155は、その測定信号から選別段階を計算し、その信号を記録装置156へ送る。そして、計測されたパンPが記録装置156上を通過するとき、記録装置156は、パンPの底面にある記録媒体P5の指定された一個を磁化する。このようにして選別段階を記録されたパンPは、選別物搬送コンベヤ14によつて各選別部151、152‥‥‥に搬送されて行くが、各選別部151、152‥‥‥の前段に設けられている読取装置151が、搬送されてきたパンPの記録内容を読み取り、その内容が各選別部151、152‥‥‥の選別段階と一致すれば、パン押出装置43に作動指令が与えられ、パンPは移送変換装置52へ導入され、分岐コンベヤ56を経て集積コンベヤ81に集積されて、被選別物が箱詰めされる。なお、空パン返還コンベヤ108に乗つた空のパンPは、脱磁機157を通過するとき、記録媒体P5の磁化が消磁されて、再びパン集積タンク1へ送られるのである(第一二欄第二〇行ないし第一三欄第二行)。
3 作用効果
本件発明によれば、選別の全過程を通じて被選別物が互いに接触することがないので、被選別物の傷を防止して商品価値を維持することができる。のみならず、選別作業および箱詰め作業の能率化及び自動化が可能である(第一三欄第二六行ないし第三六行)。
とりわけ、本件第二発明によれば、パンの記録が消えない限り、選別場所及び時間に関わりなく選別ができる上、計測装置が一つでよいため、装置全体を簡略化することが可能である(第一四欄第一九行ないし第二九行)。
二 読取装置と選別機構の対応について
原告は、本件第二発明の要旨に含まれる別紙参考図に示す構成について、本件明細書の発明の詳細な説明には各読取装置151と各パン押出装置43を結合してパン押出装置43を作動させるための事項が、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されておらず、また、本件第二発明の特許請求の範囲には発明の構成に欠くことができない右事項が記載されていない、と主張する。
別紙参考図に示す各読取装置151を各選別部151、152、153から離れた位置に配設する構成も本件第二発明の要旨に含まれることは、被告も明らかに争わないところである。そして、右のような構成の場合に、各読取装置で記録内容を読み取つた後、読取内容に基づいて各選別部を制御する必要があることは、被告の認めるところである。
しかしながら、各読取装置で記録内容を読み取つた後、読取内容に基づいて各選別部を制御する必要があることは、本件明細書記載の第二の実施例のように、各読取装置151が各選別部151、152、153と近接して配設される場合も全く同様であることは、技術的に自明の事項である。現に、前掲甲第二号証によれば、本件公報の第一二欄第三四行ないし第三九行には「各選別部151、152‥‥の前段の読取装置151により送られてきたパンPの記録内容が読み取られ、その内容が各選別部151、152‥‥‥の選別段階と一致するとパン押出装置43に作動指令が与えられ」と記載されており、第二の実施例において、読取装置151から選別機構に対して、所定の場合にパン押出装置43の作動指令が与えられること(換言すれば、選別部が読取装置によつて制御されること)が、明確に開示されていることが認められる。このことは、別紙図面の第16図において、各読取装置151から各パン押出装置43に向けて矢印が描かれ、その間に何らかの指令系統(制御系統)が存することが表示されていることからも疑いの余地がない。のみならず、本件第二発明の特許請求の範囲には、選別機構の構成として「読取装置の読取内容に基づき作動し、パンを選別物搬送コンベヤの搬送工程外へ誘導する」ことが記載されているが、これは、読取装置151から選別機構に対する制御がどのような内容のものであるかを示すものにほかならない。
そして、成立に争いのない乙第一号証(昭和四七年特許出願公開第二五八五六号公報)、第二号証(昭和五一年特許出願公開第八五九五六号公報)によれば、右公報には、物品の選別装置(仕分装置)においてマイクロコンピユータによる時間制御を行うことが記載されていることが認められ、右技術事項は当業者ならば容易に実施し得る周知技術にすぎないと理解される。ちなみに、前掲乙第一、二号証によれば、前者の特許請求の範囲は、「搬送装置上の品物が直前を通過するとき、仕分け情報を入力する仕分け情報入力装置と、上記品物が直前を通過したとき仕分け情報記録用タイミング信号を発生する仕分け情報記録用タイミング信号発生器と、上記仕分け情報記録用タイミング信号に応じて上記仕分け情報を仕分け先信号に変換する装置と、上記搬送装置の移動距離を検出する搬送体移動距離検出器と、上記仕分け先信号に応じて、この仕分け先信号発生時の上記搬送体移動距離検出器の出力値に、上記仕分け情報記録用タイミング信号発生器からその品物の仕分け地点までの距離に相当する信号の値を加えたデータを記録する仕分け先記憶回路と、上記搬送体移動距離検出器の出力値が変化する毎に、上記搬送体移動距離検出器の出力値と上記仕分け先記憶回路の内容とを照合し、一致したとき対応する仕分け先の仕分け機構へ仕分け指令を発する仕分け判定回路とからなる自動仕分け装置」というものであり、後者の特許請求の範囲は、「果実またはそ菜を離隔搬送させる機構と、この搬送装置を挟んで対向した二枚のミラーの間を反復反射するビーム光線によつて光線面を形成する機構と、上記果実又はそ菜夫々の該光線面通過時における搬送速度及び光線遮断時間から算出した該果実又はそ菜の径値を予め定めた径区分に比較選別する制御回路とを備えたことを特徴とする果実、そ菜の選別装置」であることが認められ、いずれも、本件第二発明と基本的な技術的思想を共通にした互に親近性をもつ発明であることが明らかである。
以上のとおりであるから、別紙参考図に示す構成において、各読取装置151と各パン押出装置43を結合してパン押出装置43を作動させるための制御手段を設けるべきことは、当業者にとつて技術的に自明の事項であると理解される。
そして、右制御手段の具体的構成は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び周知技術に基づいて、当業者ならば容易に想到することができる範囲の事項であると理解されるから、読取装置と選別機構の対応について、本件明細書の発明の詳細な説明及び本件第二発明の特許請求の範囲の記載が特許法第三六条第四項及び第五項に規定する要件を満たしていないということはできない。
三 記録媒体について
原告は、本件明細書の発明の詳細な説明には、記録媒体として紙カード等を使用した場合にパンを繰り返し使用し得るための構成が開示されていない点において、当業者が容易に本件第二発明の実施をすることができる程度に発明の構成が記載されていないし、本件第二発明の特許請求の範囲には、記録媒体を磁気記録媒体に限定せず、しかも脱磁器を記載していない点において、発明の構成に欠くことができない事項が記載されていない、と主張する。
しかしながら、本件第二発明が、記録媒体を有するパンを排出装置からパン集積部に返還し繰り返し使用することを企図するものであることは前記のとおりであるが、同時に、パンに配設された記録媒体の交換が全く企図されていないことも、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載から疑いの余地がないところである。したがつて、本件第二発明が要旨とする記録媒体が、記録された信号を消去でき繰り返し使用し得るものに限定されることは、技術的に自明の事項というべきである。したがつて、本件明細書の発明の詳細な説明に紙カード等を使用したときの構成が開示されていない点を捉えて、当業者が容易に本件第二発明の実施をすることができる程度に発明の構成が記載されていないという原告の主張は失当である。
また、記録媒体には、繰り返し使用するために信号消去手段を必要とするものと、信号消去手段を必ずしも必要としないものが存することは、技術的に自明の事項である。したがつて、本件第二発明を実施するに当たつては、採用する記録媒体に応じて、信号消去手段が必要ならばその記録媒体に即した適宜の信号消去手段を配設すればよく、信号消去手段が不要ならばこれを配設しなければよいのであつて、このようなことは、当業者ならば設計に際して適宜になし得る事項にすぎないというべきである。したがつて、本件第二発明の特許請求の範囲に、記録媒体が磁気記録媒体に限定されていないにもかかわらず、脱磁器が記載されていない点を捉えて、発明の構成に欠くことができない事項が記載されていない、という原告の主張も失当である。
なお、原告は、審決は本件第二発明が要旨とする「記録媒体」という用語を「記録担体」と読み替えている、と論難する。しかしながら、審決において「記録担体」の用語がみられるのは第一〇頁第三行ないし第五行の四箇所のみであつて、その他の箇所においては本件第二発明の特許請求の範囲の記載どおり「記録媒体」の用語が使用されている。そして、右四箇所において「記録担体」の用語を「記録媒体」という用語と別異の意味において使用していると考える根拠は何ら存しないから、右「記録担体」は「記録媒体」の単なる誤記であると理解せざるを得ない。
したがつて、記録媒体についても、本件明細書の発明の詳細な説明及び本件第二発明の特許請求の範囲の記載が特許法第三六条第四項及び第五項に規定する要件を満たしていないということはできない。
四 以上のとおりであるから、原告主張の特許無効事由<1>に関する審決の認定判断は正当であつて、原告主張の特許無効事由及び証拠によつては本件第二発明の特許を無効にすることはできないとした審決に、原告が主張するような違法はない。
第三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却する。
〔編注1〕本件第二発明の要旨は左のとおりである。
記録媒体を有し、被選別物を収納するパンと、
このパンを多数集積するパン集積部と、
このパン集積部に設けられ、パン集積部からパンを供給する供給装置と、
前記パン集積部に接続され、供給装置によつて供給されたパンを搬送するとともに、搬送中にパンに被選別物が収納される選別物供給コンベヤと、
この選別物供給コンベヤに連設され、パンを搬送する選別物搬送コンベヤと、
この選別物搬送コンベヤの搬送工程前段に設置され、被選別物の重量又は大きさを計測する計測装置と、
この計測装置に対応して設けられ、計測装置の計測結果に基づきパンの記録媒体に選別段階を記録する記録装置と、
前記選別物搬送コンベヤの搬送工程中に所定間隔をおいて設けられ、パンの記録内容を読み取る選別段階別の複数の読取装置と、
この各読取装置に対応して設けられ、対応する読取装置の読取内容に基づき作動し、パンを前記選別物搬送コンベヤの搬送工程外へ誘導する複数の選別機構と、
この各選別機構に対応して前記選別物搬送のコンベヤの搬送工程中に接続され、対応する選別機構により搬送工程外へ誘導されたパンを搬送する複数の分岐コンベヤと、
この各分岐コンベヤに接続され、分岐コンベヤによつて搬送されたパンを集積するとともに、集積されたパンから被選別物が取り除かれる選別段階別の複数の集積コンベヤと、
この各集積コンベヤに設けられ、被選別物が取り除かれた空のパンを集積コンベヤから排出する複数の排出装置と、
この各排出装置がその搬送工程中に接続され、各排出装置によつて排出された空のパンを搬送して前記パン集積部に返還する空パン返還コンベヤと
を具備したことを特徴とする、選別装置
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面
<省略>
別紙参考図
<省略>
記録装置156のあとに読取装置151をまとめて配置した図
発明の詳細な説明には、読取装置151で記録内容を読取ったあと、被選別物を収納したパンが所定の選別部に到達したとき、その選別部のパン押出装置43を作動させる機構についての記載が全くない。